夕食を済ませて、外に出ると、辺りは、すっかり夜の静寂に包まれている。その静けさの中に佇んでいると、日によっては甘酸っぱい、良い香りが漂ってくる。大概それは、近くで草刈りをした日なのだ。懐かしい匂い。子供だった頃、畑と林で被われた田舎で過ごした時の匂い。思わず胸いっぱいに吸い込んでいく。遠い甘い思い出が、間近に蘇ってくる。
都会では、殆んどこういう甘酸っぱい草木の匂いを味わうことができない。草木が満ちている環境ならではのことである。私たちは近代になり、ラジオ、テレビ、インターネット…と、どんどん家の中へと引きこもっていく。樹木や草花は、私たちの都合だけに見下され、益々損か得かに分別されていく。
先日、「能登の山を歩く会」で、赤蔵山へと案内された。草木は、葉っぱや、幹に、特別の味がしたり、匂いがしたり、肌触りをするのを教えられる。一つひとつの名前を、性格、観察の仕方を教えられる。ノートに書き留めたのは、約百近くの名前。書き留めただけで、直ぐその場で忘れる。残ったのは、ヒメジョオンと小判草ぐらい。しかし、その日は、興奮して早く目覚めてしまった。葉っぱの見事な造形に、切った葉っぱから染み出る香りに、小さな花びらの可憐さにびっくりし、興奮しているのだ。もっと、もっと彼らに近づいて行けそうだ。 2018年6月23日
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