2024年4月2日

147 能登あすなろ通信 三寒四温

 


三寒四温とは言いますが、今春は寒の方が多くて、温が少ないのではないかと訝しげに思っていました。でも漸く、ここ二、三日気温も緩み、朝起きるのも楽になり、春風に吹かれる心地良さも感じられてきました。冬がとても長く感じられ、厳しく思った者には、温い春の到来が何よりも嬉しい。

冬の間、食卓に上らなかった時がない程、美味しく食べた大根も、トウ立ちし始め、筋ばってきて食べられなくなった。当然、食には無関係な雑草もいっぱいに育ってきた。例年だと、そろそろ草刈りが始まる頃です。しかしそういった仕事に率先してやって来られた近所の先輩たちの姿を、今は見ることができない。夫々の避難所へ行ったまま、まだ帰ることができないのです。

震災が起こってから三ヶ月が経とうとしています。しかし水道水もなく、家も壊れたままで、帰りたくとも帰れない方々が大勢おられます。これからも、まだ長く険しい道が続くのかもしれません。しかし、大地震を経験したもの同士の連帯感が生じて、互いの心の垣根を低くしての新しいきずな、分かち合いが強くなり、暮らし易くなった所も多々みられます。人が暮らすとは、利便性や合理化などとは違った事柄なのだと改めて思わされます。

無限なる宇宙の中での一つの惑星、地球での、生きとし生けるものら全ての営みがあり、私たちの生活があります。これら何一つ欠けても生きられぬ私たちです。ここに生きていることは、そんな厖大な時空からも眺めることができると思っています。                   2024年3月27日

2024年3月6日

146 能登あすなろ通信 どこまで行っても

 


白、黄のスイセン、オドリコソウ、タネツケバナ、様々な草花が花を咲かせ、生きている。大地震が起ころうが、山が、道路が、家々が壊れようが、何でもない顔して、元気よく生きている。ぼくらも同じ命を頂いて、今日を生きている。

元旦の夕方に起きた大地震によって、傾き、歪んでしまった家に戻って、二十日以上経った。電気、ガスが通じているから、食事、炬燵が可能。部屋の戸が開閉不能の故に石油ストーブの効果なし。水道水が出ないが、井戸(飲料不可)があるから、洗い場になる。近くに沢水が出ているので、そこで飲料水を確保していく。家の傾きのお陰で、なかなか整理整頓できずにいる。少しずつ、少しずつと思っている。家の中が寒いから、毛糸の帽子を被り、手袋して防寒している。時々、遠方の友人から電話がかかり大変だなと言ってくれる。大変と言われると、そうかと思うのだが…。

ウクライナ、パレスチナ、ミャンマー、世界中の様々な国々、民族が戦火や天災で、家を失い故郷を追われている。国内でも、家もなく、食べることもできずにいる人々もいる。病気や事故、借金返済で困っている人もいる。世界中の、一人ひとりの人生で大変な人生ではない人はいないのかもしれない。大変は、大変な出来事があるから、人生を大きく変えさせられる。それが却って見事な花を咲かせていくように、一人ひとりの心の中に、新しい考えが、素敵な花のように咲いていきますように。    2024年2月29日                            

2023年12月23日

144 能登あすなろ通信  冬至

 


能登の黒島で最初に住み始めたのは、八年前の11月初め。先ず一人で住み始めたこともあり、寂しいこと、慣れない土地での生活、日本海側の憂鬱な空模様に戸惑い、一冬を越すのに苦労した。それから少しずつ、少しずつそういった諸々のことにも親しんでいき、今は、すっかりここの土地の一人となってしまった。

朝、畑やその周辺をぐるりと回って来る。始めは億劫な気持ちが大きいのだが、その内心身ともに温くなり、気持ち良くなっていく。日々何かしらの発見がある。近頃、猪の足跡は見えなくなったが、何者かエサを食い漁って穴を掘っている形跡がある。冬の嵐で飛ばされた枝や竹、落ち葉が昨日とは違う風に転がり、配置されている。しかし、何よりも空や光の加減や空気が昨日とは異なっているためなのか、これまでとは違う、見知しらぬ世界へと躍り出たように感じる。自然は、刻々と変化し続け、同じ状態がない。ただ、我がこころに、何かしらのしがらみ、不安事を抱えている限り、こういった自然の変わり様に感じていく窓口が閉ざされているのだろう。

静けさ、沈黙の中に、当たり前の日常生活のなかに、キラキラした宝石のようなものを発見することがある。何気ない人の仕草に、一陣の風のそよめきに、笹竹が風と戯れる音、揺らめきに、新鮮に、驚かされることがある。幼い頃、そういった日々を誰もが生きてきたのではないのか。大人になってしまった私たちも、何時でもそんな日々を甦らすことができるチャンスを持っていると信じている。                  2023年12月25日